コラム「ザ・キンクス」
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コラムについて
こんにちは。ミュージックファーストの片山と申します。
今後 不定期ではありますが当店スタッフが色々なテーマに基づいてコラムを書いていきたいと思います。
その第一回目は私が大好きな「ザ・キンクス」というアーティストについて 所説もありますが自分の知っている知識と愛情をもってわかりやすくお伝えできたらなと思います。
長文になりますので時間のある時にでも読んでいただけたらと思います。
では、宜しくお願いします!
まずざっくりと「ザ・キンクス」とは?
60年代から活動を開始し「英国 4 大ロック・バンド」としてビートルズ、ストーンズ、ザ・フーと並んで英国の人気バンドとして肩を並べていました。
いわずもがなビートルズとストーンズは誰しも知っているビッグ・バンドですし、ザ・フーは60年代はモッズ・カルチャーのアイコンとしてファッショナブルなバンドで有名になり、70年代になればハードロック・バンドに変貌しアメリカのウッドストックにて大爆発的な人気バンドに上りつめます。
ではこのキンクス。
アルバムは聴いてないけど唯一知っているのは彼らのヒット曲「You Really Got Me」だけ、という人もきっと多いはず。
つまり「一発屋扱い」とされている節もあるのです。
実際そうかもしれませんが、実は素晴らしい作品をいくつも残しており、彼らがこのロック・シーンに大きな影響を与えた事実を認めているアーティストもたくさんいます。
ビートルズとストーンズの凄さと素晴らしさは十分認知されていると思いますので、そんな彼らザ・キンクスの音楽史を感じてもらうことで少しでも興味を持ってもらえたらと思い、
今回はこのザ・キンクスを「ビートルズとストーンズどっち派?」と聞かれて「キンクス派!」と言ってしまう自称キンクス・マニアのわたくしが、自分なりの解釈で紹介しようと思います。
元祖パンク・バンドはザ・キンクスだった
ザ・キンクスはボーカル兼リズム・ギターのレイ・デイヴィスとリード・ギタリスト兼ボーカルのデイヴ・デイヴィスの兄弟で 1962年に結成。
いまでこそオアシスやキリンジなど兄弟バンドはいますが、この60年代でメジャー活躍する兄弟バンドはほぼいなかったんじゃなかろうか。兄弟バンドの元祖かもしれないですね。
当時の音楽シーンは62年にデビューしていたビートルズが大爆発しており時代はマージー・ビート一色。ブリティッシュ・ビートとも言われています。
(解説:マージー・ビートとはビートルズのような綺麗なハーモニーとメロディで構成された英国ビート・ポップス)
キンクスも64年初頭にリリースされたファースト・シングルとセカンド・シングルはそのマージー・ビート路線でリリースしたものの2 枚とも完全なる不発。
当時ビートルズにのっかったグループがかなり存在していたことを考えると全然相手にされなかったのであろう。
そこで怒りの弟デイヴは
「いやいや、こんな綺麗な曲なんか面白くねえ!もっと激しい曲をやりてえんだよ!」
とスピーカーをナイフでぶった切り!! (おいおいマジか)
そしたらあら不思議、ギターがギャンギャンに歪むじゃないの !!
そう、俺たちがやりたかったのはコレ! かますぜ初期衝動 !!
とリリースされたのが3枚目シングルとなる、かの有名な「You Really Got Me」なのである。
そう、パンク・ロックの誕生である。
64年当時歪んだ狂暴なギターなどは皆無で、あのビートルズですらクリアトーンのギターを弾いていた時代。
エフェクターなど無い時代にスピーカーを傷つけて産み出したゴギャギャゴギャ!と激狂暴なギターリフが炸裂し、綺麗でナンボ & 上手くてナンボだったボーカル・グループが多い中、全くやる気のないケダるい歌い方。
サビはマージー・ビートのようにハモるわけもなく、みんなでけたたましくシンガロングに大合唱!
そしてひたすら攻め続けるアグレッシヴなえっぐいギターソロ !!
そう、これはロックだ!パンクだ !!
当時はビートルズのような綺麗なポップナンバーばかりだった64年に突如現れたこのパンクロック・ナンバーは、なんと!トップ10チャートを独占し誰も倒せなかった王者ビートルズを蹴落とし全英1位を獲得 !!!!
まだ「ロック」というジャンルも言葉も主流でなかった時代に突如発生した大衝撃!
「げげげ、なんだこれ!激しいしウルサイけど、なんかカッコいい!」
とビートルズに夢中だったボーイズ&ガールズが腰を抜かしたそうな。
この曲はのちに70年代に誕生するパンク・バンドや80年代に誕生するヘヴィ・メタルに絶大な影響を与えたと再評価され、パンクスやメタル・アーティストがこぞってキンクスに影響されたと公言したりカバーをしたりするほどである。
※ウィキペディアでは有名な音楽教授が「ヘヴィ・メタルを発明した作品」とも称したとも記してあります。
そんなパンキッシュでハードロックでヘヴィメタルな曲を、世間は「キンキー・サウンド」と称したそうで (当時「ロック」なる言葉は存在していない様子)
調子に乗ったキンクスは必殺キラーチューン「You Really Got Me」にそっくりなキンキー・サウンドの第二弾を続けてリリースしました。
ギターリフと歌詞を変えてスピード感を増した「You Really Got Me」的な またしても狂暴ギターリフ・パンク・ナンバー「All Day And All Of The Night」を64年にシングル・リリースし、こちらも第2位を獲得し大健闘した。
いやいや、2位とはいえビートルズ全盛期には十分すぎるほど異例なのである。
それでもまだまだキンクスの勢いは止まらない。
当時は最速かもしれないと思わせる速さでつんのめりながら突っ走
印象的なギターリフ1発で疾走するキンクス流R&R「Come On Now」や
凶暴で極悪なファズ・ギターが炸裂するキラー・パンク「I Need You」、
ソリッドなギターリフとメランコリックなメロディからのラストで
ギターロック様式美の誕生を垣間見せたキンキー・クラシック「Till The End Of The Day」などなど、
再評価もされたパンキッシュな名曲もどんどん発表したのです。
いけいけキンクス!攻めちまえキンクス!
ビートルズやストーンズを脅かす存在となったキンクス。
さあ!いまから快進撃が始まるぞ! という時にキンクスは、やっちまいます (苦笑)
いまも変わらずやはり音楽はアメリカで成功することが重要であったようにビートルズもアメリカで成功し認められるわけなのですが、このパンク・バンドのキンクスはサウンドだけではなくメンバーの人間性もパンクであったことが証明されています。
メンバー仲が最悪なことも有名で兄弟喧嘩はもちろんメンバー同士での喧嘩も日常茶飯事。
度が過ぎて喧嘩は喧嘩でも楽器で殴りあい (まじか)
メンバーに重傷を負わせてしまう始末 (あああ”)
弟のデイヴに関してはイケメンがゆえにライブよりも女遊びを優先することも多く、それがきっかけなのか大チャンスであったアメリカでのツアーもブッチしてしまうキンクス。
もちろんアメリカ側の怒りが収まることなく「キンクスは危険バンドなのでアメリカ入国禁止!!」とし全盛期であった60年代後半の約5年間アメリカでの活動を絶たれることとなります。
完全に致命的ダメージですね。あらあら。
このチャンスを逃してしまったキンクスはイギリスやヨーロッパでの活動しかできなくなり、どんどん有名になっていくビートルズやストーンズ、後輩のザ・フーもアメリカで成功して差ができていったとされています。
ソングライター、レイ・デイヴィス。独自のシニカル作詞センスを開花していく
そしてチャンスを失いロックに興味がなくなった失意のレイはキンクスの音楽性を大きく変えていきます。
パンキッシュな激しいロック・バンドとして活動したキンクスは 66 年に全くロックではない牧歌的バラード 「Sunny Afternoon」をリリースします。
時は 66年。音楽シーンにも「ロック」なる言葉やジャンルがやっと主流になり、ドラッグやサイケデリック・ カルチャーが強くなっていた時代となりました。
ロックの先駆者であるビートルズも 65年に「Rubber Soul」66年に「Revolver」とサイケ・ロック調の名盤をリリースした時期で、一方ストーンズはR&Bカバー主体のスタイルから遂に全曲オリジナル曲での勝負作「Aftermath」をリリースし、いよいよロック・バンドとして本領発揮し飛躍した年でもあります。
でもマイペースを貫き我が道を進んでいくキンクスは、みんなが
「イエーイ!ロックこそが最高や! ドラッグ吸って音楽やってナンボじゃろ!」
となっていたのも 全く興味なし(苦笑)
みんながやっとロックに興味を持ってきたのに 簡単にロック卒業。かっこよすぎます。
66年、ビートルズのジョンとポールですらまだ愛だ恋だ男と女をテーマにメインに作詞していた時代。
レイは一般庶民の希望や人間風景などをストレートではなく皮肉めいたシニカルな歌詞世界で表現していきます。
当時のイギリスは上流階級や中流階級など「階級」によって生活スタイルが決まっていたとされています。
つまり裕福な人と裕福でない人のライフスタイルの格差が大きかったのです。
この「Sunny Afternoon」の歌詞はこう解釈もできます。
「上流階級の金持ちの俺様が女王陛下が作った税制によって重税に耐えられず、税務署から金をふんだくられた。ヨットや彼女や何もかも失った。俺はこの天気のいい夏の夕方に、何もできずただボーとしてるだけ。」
税制を叩きつつこの皮肉めいたストーリー性のあるレイの歌詞は
「おいおい、こんなこと歌って大丈夫か?! いいぞ、もっと言ってやれ!」
とまたもやボーイズ&ガールズに大ウケ。
これまたビートルズを蹴落として全英1位を獲得してしまうのである。すげー。
初期は激しい「サウンドでのパンク・スタイル」であったキンクスが、今度は詞の世界で英国を脅かす「言葉でのパンク精神」を見せていくのです。
そしてキンクスはまだまだ我が道を進んで行きます。
カップルが移民として他国へ行こうとする風情を普通の人生を歩んだ年配の男がただ眺めるだけという歌詞内容でイントロから名曲の香りプンプンのキンクス屈指の大人気バラード名曲「Waterloo Sunset」を67年にリリース。
この曲は初めてセルフ・プロデュースでのシングル・リリースで第2位を記録。
これでレイは自信をつけたのか1位を獲れずむしろ諦めてスッキリしたのか、売れる曲には興味を無くしてしまい自分の世界観を表現することにこれまたシフト・チェンジ。コンセプト・アルバムの世界に没頭していく。
(解説:コンセプト・アルバムとは曲の寄せ集めではなく ひとつのテーマや物語もとにアルバム全体で表現した作品)
コンセプト・アルバムやロック・オペラなど、我が道を進んで行くザ・キンクス。
イギリスやアメリカの音楽シーンでハードロックやドロドロのサイケ・ロックが流行りだした68年に
「クリエイティヴになりたかったし、コマーシャルじゃないことに何か言いたかった。」
「新しいことばかりが全てではない。村の緑を守ろう。」
と完全に時代に逆行する田舎町のコンセプト・アルバム「Village Green Presavation Society」を68年にリリース。
ヴィレッジ・グリーンという村に色々なキャラクターが登場しそれぞれの人生の喜怒哀楽が各曲で表現されていく作品。
もちろん全く売れず(笑)
むしろ、何やってんの??と評価下落 (苦笑)
68年はビートルズは「White Album」で ストーンズは「Beggers Bunquet」をリリースし大絶賛されていた年である。
翌年69年にザ・フーはアメリカ最強の野外フェス、ウッドストックにて人気大爆発となるのです。
しかし当時は全く見向きもされなかった埋もれた作品なのですが、その内容の素晴らしさから「キンクスの最高傑作」といまだ根強い人気を誇る名盤として扱われることは実にキンクスらしいとは思いませんか。
パンキッシュなサウンドも皮肉な歌詞世界ものちにはスタンダートとなることですし、このキンクス(レイ)の早すぎた非凡なセンスに当時のリスナーはついていけなかったのかもしれません。
その後キンクスは数枚のコンセプト・アルバムをリリースし、70年初頭ではカントリー&パブ・ロックやロック・オペラに突き進みマイウェイ状態を独走。
70年代後期から80年代初頭には「俺らが本物のパンクスや!」とリアル・パンクスに呼応するようにパンキッシュ&ハードな作品をリリースしていく。
そして96年に解散。
兄弟仲の悪化との説が濃厚である。
以後、再結成をチラつかせながらもレイとデイヴは各自ソロ・アーティストとして活動しています。
個人的にザ・キンクスのオススメ盤をご紹介!
さて、最後に。
好きすぎてキリがないし読む方も疲れちゃうと思うので、あえてコンパクトにザックリとですが数作品紹介します。
あとは気になる作品から手に取ってみてください。
ただしどの作品もサウンドはチープでザラザラしていて決して上手いとは言い難いサウンドがキンクスの魅力なので、肩の力を抜いて温かい耳で聴いてあげてくださいね。
(こういったローファイ・ポップなスタイルがのちのインディー・ポップのルーツとしても再評価されていますよ)
ちなみにキンクスの全盛期はやはり60年代とされているのでベスト盤を買うなら60年代の名曲がいっぱい入った作品がおススメです。
実はアルバム未収録曲のシングル・オンリー曲にも名曲が多いので、1枚ぐらいはベスト盤が欲しいところです。
Kinks (1964年作)
狂暴なギター!荒い&ハイテンション!ほとんどの曲がハイスピード・ナンバー!チンピラが初期衝動でぶっぱなす元祖UKパンク・アルバムな1stアルバム。
同時代にリリースされた他バンドの作品に比べても別格にパンキッシュなサウンドに驚愕です。
必殺キラーチューン「You Really Got Me」収録ですし、ガレージ・パンク好きも是非。
Face To Face (1966年作)
カバー主体からオリジナル曲中心で構成され 黄金期の開幕を告げる本領発揮なアルバム。
ジャケが主張するようなサイケデリック・ポップやいままでにないフォーキーな楽曲が並びながらも初期のパンキッシュなビート・ポップとのバランスもお見事。
この作品を含むこれ以降の作品は、好みの違いぐらいでどれも素晴らしいです。
大ヒット曲「Sunny Afternoon」も収録。
Something Else (1967年作)
ザ・ジャムがカバー・ヒットしたモッズ賛歌「David Watts」と名曲「Waterloo Sunset」収録のファン人気が高い逸品。
ノスタルジックなアレンジとメロディセンスがさらに開花され曲バランスもより多彩になり、ビートルズでいうリボルバー的な立ち位置かも。本作をベストと挙げるファンも多いです。
お洒落でジェントルなジャケもグッドルッキンですね。
Village Green Preservation Society (1968年作)
キンクスの最高傑作と称される名盤。個人的にキンクス名盤の中で一番好きな作品です。
フォーク・ロック、ギターポップ、ネオアコ、サイケ、ソフト・ロックなどがミックスされており、優しくてポップなサウンドにほっこりします。
改めて聴いてみてもインディー・ポップの先駆的作品とも捉えれるし、自信をもってオススメできる 正にエヴァーグリーンな名盤です。
Arthur (1969年作)
前作までフォーク・ポップ寄りだったキンクスがひさびさにギターロック回帰したロック・コンセプト作。
アグレッシヴなロック・ナンバーや転調するドラマティックな大作が多く、有名曲こそ少ないが意外にキンクス入門に最適な気がする。
邦題「アーサー、ならびに大英帝国の衰退ならびに滅亡」←邦題センスも最高。
あくまでも個人的見解なので至らない部分もあったかとは思いますが、これをきっかけに興味をもって聴いていただけたら幸いです。
長文にもかかわらず最後までお付き合い ありがとうございました。