【本日のおすすめ】 Kenny G / Silhouette (1988)

【本日のおすすめ】Kenny G / Silhouette (1988)

ケニーG、というとジャズファンは一笑に付すかもしれません。
例えば、パット・メセニーの舌鋒に倣う形で…。

しかし、明け透けなまでにロマンチックに歌い上げるあのサックス。
特にある年代以降に生まれた人にとっては、他の何にも替えがたいノスタルジアを喚起する、特別な響きだと感じるのは私だけでしょうか。

夜景をバックにどこまでも舞い上がるようなロングトーン、湿度をたっぷりと含んだメロディ。
バブル期に録音されたことを強く記名するクリスタルな打ち込み。
それらが混然となって記憶を呼び覚まします。

子供の頃に家族で訪れたショッピング・モール、後部座席でまどろみながら揺られた夜の車…。
物心ついて間もない、半分繭の中に守られている頃の情景。

本作に収録されたヒットナンバー「Silhouette」はそんなケニーGサウンドの魅力が詰まった一曲だと思います。

カニエ・ウェストが妻のキム・カーダシアンへのサプライズで、薔薇の敷き詰められた部屋で演奏を依頼した…というトピックはさておき。
逆張りでも何でもなく、ロバート・グラスパーが冗談抜きで憧れたと語っていたように。
”嘲笑の対象”という呪縛から解き放たれ、白紙の気持ちで向かい合ったとき、ケニーGのサックスは聴く者の胸を強く打つでしょう。